研究計画の大要本研究の目的、学術的意義、期待される効果

①研究の目的

 本研究は、企業における大卒者の採用活動の有効性と今後の方向性を明らかにすることを目的とする。日本の大企業の採用活動としては(超)短期のインターンシップ(以下「IS」)で母集団を確保し、エントリーシートや各種テストを用い候補者を絞りながら面接を経て最終決定を行うのが一般的である。しかしながら、ISを学生の母集団形成に利用する企業は多いものの、学生の能力把握に対して積極的に活用している企業は多くない。これは日本では大学生のISは「教育目的」が強調され(亀野2021)、文部科学省等がISで得た学生の情報を採用活動に利用することについて厳しい歯止めをかけていることによるところも大きい。とはいえISは企業の採用時には一定の役割を果たしているといえるが、採用後も効果(職場定着、採用後の良好なパフォーマンスなど)が有効であるのかを定量的に分析し、ISの就職・採用に係るマッチング機能の有効性を検証することが本研究の目的である。
優秀かつ多様の人材の採用が企業の経営上重要な課題となっているが、企業も学生の能力を十分に把握できず、また、学生の志向も銘柄大企業に集中するなど双方の情報の非対称性が存在している。これらを軽減する一方策としてISを実施し、学生の能力等を把握し採用につなげていくことが想定され、実際に、欧米や中国などでは在学中にインターンシップを行い、双方の情報不足を補うことにより就職・採用につなげていく傾向がより強くなっており、マッチング機能の一つとして機能している。しかし、現在の日本のISでは数日間という世界的にみて特異な短期ISが常態化しており、現行の日本の就職・採用システムでは、就職希望学生の能力把握の困難さに加え、就活日程の早期化、大学教育の形骸化などの歪みが生じており、企業、学生の双方が過大に負担しながらも決して満足する採用・就職結果が得られていないことから、新たなマッチング機能の構築が急務であるといえる。

②学術的意義

 Ryanら(2004)は、面接などよりも実際の仕事状況に近い形を用いた選抜方法の方が業績の予測力が高いことを明らかにしている。つまり、「実際の仕事状況に近い形」としてIS等が想定されるが、日本企業の採用活動は面接偏重であり、IS等の効果の検証が不十分である。

 こうした背景から、申請者はこれまでの研究において就職・採用時におけるISの効果に着目し、一定の効果があることを明らかにしてきた(亀野2020,2019など)が、本研究では、採用後数年後(3年程度を想定)に着目してその有効性を定量的に検証することを目的とする。
本研究の意義は、ISの採用に対する効果について、採用時における双方のミスマッチの軽減にとどまらず、入社後数年経過時点の状況に着目した点である。また、一企業の事例ではなく日本全体の状況について定量的データを収集し多変量解析を行うことにより、有効性の要因を明確にすることを目的としている点である。

③期待される効果

 ISを活用した就職・採用のマッチング機能の有効性が高い要因(採用活動の方法、ISの内容、業種・規模、人事労務管理の特性など)を明らかにすることにより、各企業が求める人材(適性、能力など)や学生のキャリア意識等に合致した採用・就職に繋がり、学生・企業双方にとってより有効性の高い採用・就職活動のあり方を提言することができる。さらに、近年、検討がなされている教育目的と就職・採用目的を併せ持ち、大学院生を対象としたジョブ型研究インターンシップの具体的なあり方やルール作り、今後の拡充の方向性の議論にも資すると考えられる。ひいては、本研究の成果は、通年雇用の拡大も踏まえながら双方の満足度がより高まる実質的な就職・採用活動の検討にも資するものである。

【参考文献】

亀野淳(2021)「日本における大学生のインターンシップの歴史的背景や近年の変化とその課題-「教育目的」と「就職・採用目的」の視点で-」『日本労働研究雑誌』 No.733, pp.4-15
亀野淳(2020)「インターンシップと就職・採用の関連に対する賛否を規定する要因分析 -大学の属性に着目して-」『北海道大学大学院教育学研究院紀要』No.136, pp.193-207
亀野淳(2019)「インターンシップやアルバイトと就職活動との関連についての大学生アンケート調査結果」『北海道大学大学院教育学研究院紀要』No.134, pp. 131-143
Ryan, A. M. & Tippins, N, T (2004)Attracting and Selecting: What psychological research tells us. Human Resource Management. Vol. 43 No. 4, pp.305-318