研究の背景・目的本研究の学術的背景、明らかにしたいこと、学術的な特色・独創的な点、予想される結果と意義
①背景(内外における当該分野の動向)
本研究は、大学生のインターンシップ(以下「IS」という)の就職に係る効果が就職後も有効であるのかを定量的に分析し、ISの就職・採用に係るマッチング機能の有効性を検証するものである。
若年者の就職・雇用問題は多くの国の政策的課題となっているが、学生の志向が大企業に集中し、企業も学生の能力を十分に把握できないなど双方の情報不足・ミスマッチが存在している。これらを軽減する一方法としてISが考えられるが、日本では数日という世界的にみて特異な短期ISが一般化している。また、ISを就職・採用に関連付けることは政府の方針等もあり、一種のタブーが存在している。
しかし、欧米や中国などでは在学中にインターンシップを行い、双方の情報不足を補うことにより就職・採用につなげていくことは一般的であり、マッチング機能の一つとして機能している。
日本の現行の就職・採用システムでは、就活日程の早期化、大学教育の形骸化、インターンシップの短期化などの歪みが生じており、こうした労力を双方が過大に負担しながらも決して満足する結果が得られておらず、新たなマッチング機能の構築が急務であるといえる。
②目的(課題設定とねらい)
申請者はこれまでの研究において就職・採用時に着目してきたが、本研究では、就職後数年後(5年程度を想定)に着目してその有効性を定量的に検証することを目的とする。具体的には、入社後のISの有効性の指標を企業の実情把握、同一企業勤務、仕事の満足度などとし、これらの有効性をより高める要因なども明らかにする。具体的なリサーチクエッションは以下のとおりである。
(a):【企業側の視点】採用方法の相違(ISの活用やその具体的内容)により入社時と入社後の能力把握の確度にギャップはあるか、従業員の定着はどうか。また、欧米の場合は欠員補充が一般的であり、新卒一括採用中心の日本にも当てはまるか。
(b):【学生・従業員側の視点】就職方法の相違(ISの活用やその具体的内容)により入社時と入社後の社風等の実情把握の確度のギャップ、現在の仕事の満足度、離職率などに相違はあるか。
(c):(a)及び(b)よりISのマッチング機能の有効性を高める要因は何か。ISの内容(期間など)や企業特性、学生・従業員の特性による違いはあるのか。
③学術的な独自性と意義
本研究の独自性は、ISの就職に対する効果を在学中の能力向上や就職時における企業・学生の双方のミスマッチの軽減にとどまらず、入社後数年経過した時点の状況に着目した点である。また、一企業の事例ではなく日本全体の状況について定量的データを収集し、様々な要因をコントロールして多変量解析を行うことにより、有効性の要因を明確にすることを目的としている点である。
④期待される成果と発展性
ISを活用した就職・採用のマッチング機能が有効に機能する要因を明らかにすることにより、学生・企業双方にとって、キャリア意識、適性、能力等に合致した就職・採用に繋がり、より有効性の高い採用・就職活動のあり方を提言できる。さらに、就活におけるルールとしては就活日程のみがクローズアップされ議論されているが、日程の早期化、大学教育の形骸化、ISの短期化などの様々な歪みが生じており、日程の変更だけでは抜本的な問題解決にはならず、本研究の成果は双方の満足度がより高まる実質的な就職・採用活動の検討にも資するものである。
⑤本テーマに関する内外の他研究機関での研究の現状と本計画の特徴
ISの就職に関する研究は、佐藤・梅崎(2015)など実証的な研究も進んでいるが、その役割や定義、設計や評価に比べて少ない。また、採用に関する研究については、企業は就職希望者の能力を把握し選抜をしようとしているが、これらの研究を総括したRyanら(2004)では、面接などよりも実際の仕事状況に近い形を用いた選抜方法の方が有効であることを明らかにしている。つまり、「実際の仕事状況に近い形」としてISが想定されるが、就職・採用との関連についての研究は、前述のとおり不十分である。
さらには、ISを活用した就職・採用活動の有効性を論じる場合には就職・採用時だけではなく、入社後の状況についての検証が不可欠である。採用後の効果について酒井(2015)は一企業の事例により定着効果などについて明らかにしているが、全般的研究は見当たらない。また、近年、卒業生調査が実施されているが、大学教育の効果・有効性を明らかにするものが中心であり(矢野(2015)など)、高崎(2017)は在学中の就活の違いにより入社後の定着や能力発揮に影響があることを明らかにしているが、ISの効果に着目して就職活動の有効性についての研究は見当たらない。
本研究計画はISの就職・採用におけるマッチング機能の有効性やそれを高める要因を入社数年後の状況により明らかにしようとするものであり、これまでの内外の研究をさらに進めたものといえる。
【参考文献】
Ryan, A. M. & Tippins, N, T (2004)Attracting and Selecting: What psychological research tells us. Human Resource Management. Vol. 43 No. 4, pp.305-318
酒井幸雄(2015)「企業におけるインターンシップ実施意義の一考察-A社インターンシップに参加後、入社した社員の実情を踏まえて-」『インターンシップ研究年報』18号、pp.31-37
佐藤一磨・梅崎修(2015)「インターンシップへの参加が就職活動結果におよぼす影響 : Propensity Score Matching法によるSelf-Selection Biasの検証」『大学評価研究』14号、pp.89-100
高崎美佐(2017)「入社後の初期キャリアに対する就職活動の影響」中原淳編『人材開発研究大全』東京大学出版会、pp.177-206
矢野眞和(2015)『大学の条件-大衆化と市場化の経済分析-』東京大学出版会